読書感想
「技術革新と不平等
の1000年史 上」
ダロン・アクセモグル
&サイモン・ジョンソン著
鬼澤忍・塩原通緒=訳
(早川書房・2023)
テクノロジーの進歩が直ち
に、労働者の賃金上昇、
生活水準向上につながる
ことはなく、労働者の社
会的・経済的・政治的働
きかけ(例 工場法制定
労働組合)があって、市
民へのテクノロジーの恩
恵の分配が行われるとい
うことを過去の歴史を紐
解くことで、論証してい
く書籍です。
例えば、中世イギリスで
は、水車、風車等のテク
ノロジー導入により、生
産性が飛躍的に向上した
のにもかかわらず、貴族、
聖職者が豊かさを享受す
る一方、生産者である農
民は、生存に必要最低限
の分け前しか手にするこ
とができず、平均寿命が
産業革命前には、50歳
未満であったそうです。
また、産業革命後も、都
市環境は、インフラが未
整備のため、不衛生な状
況であったため、感染症
という脅威が加わる等、
悪化の一方を辿っていま
した。
この状況を変えていった
のは、市民が、権力層に
対して、テクノロジーの
恩恵の適正な分配を求め
ていく活動の積み重ねで
した。
本書は、テクノロジーを
支配する者が、テクノロ
ジーからの恩恵を享受で
きるのであり、市民への
適正な分配を可能とする
民主主義の意義について、
述べていることが印象的
です。
ただ、デジタルテクノロ
ジーが進歩した現在では、
産業革命期のイギリスの
ように、市民の政治的関
与、労働組合の監視によ
る方向修正を行うのが
困難となっているという
前触れとともに、下巻へ
繋がっていったことに不
安を感じております。
