【静岡県中小建設業社長様】建設業M&Aの成否を左右するのは「労務」だった 大再編時代に社会保険労務士が果たすべき新たな役割

建設業界はいま、かつてない変革期を迎えています。

担い手3法の改正、働き方改革への対応、建設Gメンによる監督強化、そして深刻な人手不足。こうした環境変化を背景に、M&Aや事業承継による業界再編が全国で加速しています。

これまでM&Aといえば、企業価値評価を行う税理士や会計士、契約や法的手続きを担う弁護士が中心的な役割を果たしてきました。


しかし、これからの建設業M&Aでは事情が変わります。

なぜなら、M&A後に最も大きな課題となるのは「人」と「組織」の統合だからです。


職人をどう評価するのか。


給与制度をどう統一するのか。


人材をどう定着させるのか。


そして若手をどう育成するのか。


これらはすべて「労務」の領域です。


その意味で、これからの社会保険労務士は単なる手続き代行者ではなく、M&A成功の鍵を握る戦略パートナーとしての役割が求められるようになります。



なぜ建設業M&Aで労務が重要なのか


建設業は製造業やIT企業とは異なり、人材そのものが競争力です。

どれだけ受注があっても、施工する職人や現場監督がいなければ売上は生まれません。


また、多くの中小建設会社では、

・日給月給制
・属人的な評価制度
・曖昧な手当体系
・長時間労働

といった昔ながらの仕組みが残っています。


そのためM&A後に制度統合を誤ると、優秀な人材が一斉に離職するリスクがあります。

つまり建設業M&Aの本当の勝負は、契約締結後の「人材統合」にあるのです。



第一の役割:労務デューデリジェンスによるリスクの可視化

M&Aで最も避けなければならないのは、買収後に発覚する隠れた労務リスクです。


例えば、

・未払い残業代
・36協定違反
・長時間労働
・社会保険未加入
・労働条件通知書の未整備

などは代表的な問題です。


特に2024年以降、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されており、過去の勤怠管理や労務管理の状況を詳細に確認する必要があります。


また近年問題視されているのが「偽装一人親方」です。

実態は社員と変わらないにもかかわらず、社会保険料負担を回避するため外注扱いにしているケースもあります。

こうしたリスクを事前に把握し、買収価格や統合計画に反映させることは、社会保険労務士が大きな価値を発揮できる分野です。


第二の役割:賃上げ原資を生み出す価格交渉の支援

建設業界では現在、職人不足を背景に処遇改善が避けられません。

しかし給与を上げるだけでは企業経営は成り立ちません。

賃上げの原資を確保する仕組みが必要です。


そこで重要になるのが、

・法定福利費
・標準労務費
・公共工事設計労務単価

といった制度の活用です。


社会保険労務士は、これらを根拠として適正な見積作成を支援し、発注者との価格交渉をサポートできます。

単なる給与計算の専門家ではなく、「利益を生み出す労務戦略家」としての役割が求められる時代になっているのです。


第三の役割:M&A後の給与制度統合

M&A後に最もトラブルになりやすいのが給与体系の違いです。


例えば、

A社は日給月給制

B社は固定月給制

というケースでは、統合後に不公平感が生じやすくなります。


この問題を解決するには、現状の収入水準を維持しながら、新しい制度へ段階的に移行する設計が必要です。

また今後はCCUS(建設キャリアアップシステム)を活用した評価制度も重要になります。


経験年数や社長の主観ではなく、

・技能レベル
・保有資格
・就業履歴

に基づいて評価する仕組みを構築することで、従業員の納得感は大きく向上します。

組織統合の成否は制度設計で決まると言っても過言ではありません。


第四の役割:バックオフィスDXの推進

M&Aによってグループ企業が増えると、労務管理は一気に複雑になります。

給与計算

勤怠管理

社会保険手続き

人事情報管理


これらを従来の紙やExcel中心で運用することは現実的ではありません。

そこで必要になるのがクラウド労務システムの導入です。


人事データを統一し、システム間を連携させることで、事務作業を大幅に削減できます。

例えば半日かかっていた業務が30分で終わるようになれば、その時間を採用や教育に振り向けることができます。

DXの目的は単なる効率化ではありません。

「人に投資する時間を生み出すこと」にあります。


第五の役割:採用と定着の仕組みづくり

建設業界最大の課題は人材不足です。

そのためM&A後の経営では、採用力が極めて重要になります。

最近ではSNSや動画を活用した採用活動が広がっていますが、求職者が本当に見ているのは会社の仕組みです。


例えば、

・週休二日制
・固定給制度
・明確な評価制度
・教育カリキュラム
・キャリアアップ制度

が整っている企業は、若手から選ばれやすくなります。


さらに、

ベテラン技能者の動画マニュアル

ウェアラブルカメラによる遠隔指導

デジタル教育システム

などを導入すれば、「未経験からでも短期間で成長できる会社」という強力な採用メッセージになります。

社会保険労務士は、これらを就業規則や人事制度に落とし込み、制度として定着させることができます。


これからの社労士に求められる姿

これまでの社会保険労務士は、

・社会保険手続き
・助成金申請
・就業規則作成

といった守りの業務が中心でした。


もちろんこれらは今後も重要です。


しかし建設業界の大再編時代においては、それだけでは十分ではありません。


これから求められるのは、

「人材戦略」

「制度設計」

「DX推進」

「組織統合」

を支援できる経営パートナーです。


M&Aによって企業規模が拡大しても、人が定着しなければ意味がありません。

逆に、人が育ち、組織が融合すればM&Aは大きな成長エンジンになります。


まとめ

建設業界は今後、M&Aや事業承継を通じた再編がさらに進むと考えられます。

その中で重要になるのは、企業を買うことではなく、人と組織を統合することです。


労務リスクの把握。

給与制度の設計。

評価制度の構築。

DXによる業務効率化。

採用と人材育成。


これらを一貫して支援できる社会保険労務士は、単なる専門家ではなく、経営者の右腕として重要な存在になっていくでしょう。

これからの建設業M&Aにおいて、成功企業を支えるのは「財務」だけでも「法務」だけでもありません。

人を活かし、組織を強くする「労務戦略」こそが、真の競争力になる時代が始まっています。