【保存版】個人建設業で「同居の親族」をパート雇用したら?社労士いらずの法的知識と注意点

1. 労働基準法が「適用されない」という事実

まず驚かれることが多いのですが、日本の労働基準法には、次のような規定があります。

労働基準法 第116条 第2項

「この法律は、同居の親族のみを使用する事業(中略)については、適用しない。」

つまり、事業主であるあなたと、一緒に暮らしているご家族だけで仕事をしている場合、その事業場には労働基準法そのものが適用されません。

なぜ法律が適用されないのか?

法律の専門用語では「法は門内に立入らず」という考え方があります。

同居している家族は、生活の拠点も財布(生計)も同じです。そこでの「手伝い」に対して、「残業代を払え」「有給休暇を与えよ」といった国家の強制力(労働基準法)を介入させるのは、家庭の平穏を乱すことにもなりかねない、という判断があるからです。

そのため、事務作業を行う奥様が月60時間働いたとしても、法律上の「労働者」とはみなされず、「家族従事者」という扱いになります。


2. 労働保険(労災・雇用保険)の手続きはどうなる?

通常、パートタイマーを雇えば「労災保険」への加入は必須ですし、条件を満たせば「雇用保険」にも入らなければなりません。しかし、同居の親族の場合はルールがガラリと変わります。

① 労災保険:原則として「加入不可」

労災保険は「労働者」を守るためのものです。前述の通り、同居の親族は「労働者」ではないため、原則として加入できません。

もし事務作業中に椅子から転落して怪我をしても、通常の労災保険(現場労災含む)の給付を受けることはできません。

② 雇用保険:原則として「加入不可」

雇用保険は、失業したときに備える保険です。しかし、親族のみの経営の場合、「いつ辞めるか」は身内同士で決められてしまいます。これでは「失業」の定義が曖昧になるため、原則として加入は認められません。

※「失業手当」も受給できないということです。


3. 「現場の手伝い」をすると話が変わる?(特別加入の仕組み)

ここで、建設業ならではの重要なポイントがあります。

「事務作業だけ」なら上記のように保険の対象外ですが、もし**「たまに現場に行って、片付けや清掃を手伝う」**という実態があるなら、話は別です。

一人親方としての「特別加入」という道

建設現場は危険が伴うため、国は「労働者ではない自営業者」であっても、労災保険に加入できる「特別加入」という制度を用意しています。

もし同居の親族が現場作業に少しでも携わるのであれば、その方は**「建設業に従事する一人親方等」**として、特別加入団体を通じて労災保険に入ることが可能になります。

  • メリット: 現場での怪我、通勤途中の事故が補償される。
  • 現場のルール: 元請けから「作業員名簿」を求められた際、労災番号が書けるようになる。

「事務だけ」なら不要ですが、「現場に1歩でも入る」なら、特別加入を検討するのが建設業のスタンダードです。


4. 社会保険(健康保険・年金)の考え方

次に、社会保険についてです。

個人事業主で、従業員が5人未満であれば、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務はありません。

  • 現状: あなた(事業主)も親族の方も、国民健康保険国民年金に加入することになります。
  • 扶養の活用: もし親族のパート代が年収130万円未満であれば、無理に個人で国保に入るよりも、事業主(あなた)がもし建設国保などに加入しているなら、その扶養に入ることで保険料を抑えられるケースもあります。

5. 手続きよりも「税務」が重要!

社労士的な手続き(労働保険関係)が不要な一方で、絶対に忘れてはならないのが**「税務署」への手続き**です。

同居親族に支払う給与を、事業の「経費」として認めてもらうためには、以下の書類が必要です。

  • 「青色事業専従者給与に関する届出書」

これを出さずに給料を払っても、税務署からは「それは単なるお小遣い(生活費の分配)であり、経費ではありません」と言われてしまい、所得税を減らすことができません。雇用したらすぐに税務署へ届け出ましょう。


6. 【要注意】「他人」を一人でも雇った瞬間にルールが変わる

ここまでのお話は、あくまで「同居の親族のみ」の場合です。

もし、知人やハローワーク経由で他人(赤の他人)を一人でも採用したら、状況は180度変わります。

  1. 労災保険: 他人の従業員に対して、成立手続きが必須になります。
  2. 労働基準法: 事業場全体に労働基準法が適用されるようになります。
  3. 親族の扱い: 「他人の労働者」がいる事業所であれば、同居の親族も一定の条件(他の従業員と同じように働いている等)を満たせば、雇用保険に入れる可能性が出てきます。

まとめ:あなたの事業所が今すべきこと

今回、同居のご親族を月60時間の事務パートとして迎え入れる際、チェックすべき項目は以下の通りです。

  1. 「同居・生計を一」にしているか確認: 別居しているなら、通常のパート手続きが必要です。
  2. 現場に出るか確認: 現場に出るなら「一人親方の特別加入」を検討。事務のみなら手続きなし。
  3. 税務署への届出: 「青色事業専従者給与」の届出を出す。
  4. 民間保険の検討: 労災に入れない事務作業中のケガに備え、民間の傷害保険等を確認する。

建設業の雇用は、親族か他人か、現場か事務かによって、迷路のように複雑です。

「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安になったら、一人で悩まずに、お近くの社会保険労務士にご相談ください。

「正しく雇って、安心して働く」

それが、強い建設事業所を作る第一歩です。