【静岡県中小建設業社長様】建具工の未来を守る経営戦略

CCUS・24段階評価制度・最低賃金対策・社労士の役割

建設業を取り巻く環境は、大きく変わり始めています。

職人の高齢化、若い人材の不足、材料費や人件費の上昇、そして最低賃金の引き上げ。建設業で会社を経営するためには、これまで以上に多くの課題に向き合わなければなりません。

特に、建具工事業のような専門工事業では、職人一人ひとりの技術力が会社の品質や信用を大きく左右します。

窓やドアなどの建具は、建物の使いやすさだけでなく、気密性、防水性、安全性、そして見た目の美しさにも関わる重要な部分です。

しかし、建具工の技術は、外から見ただけでは分かりにくいものです。

同じ現場で同じ作業をしていても、仕上がりの精度、作業の段取り、現場への対応力、周囲との連携などには、大きな違いがあります。

では、こうした職人の能力を、どのように正しく評価し、給与に反映させていけばよいのでしょうか。

そこで重要になるのが、次の4つです。

① CCUS(建設キャリアアップシステム)
② 24段階評価制度
③ 最低賃金引き上げへの対策
④ 社会保険労務士(社労士)の関与

この4つを別々に考えるのではなく、一つの仕組みとして組み合わせることが、これからの建具工事業の経営にとって重要になります。

1.建具工の技術を見える化する「CCUS」

まず、CCUSについて考えてみましょう。

CCUSとは、建設キャリアアップシステムのことです。

建設業で働く技能者の資格や就業履歴などを登録し、技能や経験を客観的に確認しやすくするための仕組みです。

これまで建設業では、「長く働いているから一人前」「経験年数が長いから技術力が高い」といった判断が行われることもありました。

もちろん、経験年数は大切です。しかし、長く働いていることと、実際に高い技術を持っていることは、必ずしも同じではありません。

一方で、若くても努力を重ね、高い技術力を身につけている職人もいます。

こうした違いを、できるだけ客観的に確認できるようにすることが大切です。

CCUSでは、登録された資格や就業履歴などをもとに、技能者の能力を確認するための基盤が整えられています。また、職種によっては、能力評価基準に基づいてレベル1からレベル4までの4段階で評価する仕組みがあります。

これにより、職人がどのような経験を積み、どのような資格を取得してきたのかを把握しやすくなります。

建具工事業にとっても、技能者の経験や資格を整理し、技術者の育成や人材確保に役立てることができます。

ただし、CCUSだけですべての能力を評価できるわけではありません。

現場での細かな気配り、施工の丁寧さ、急な変更への対応、後輩への指導など、日々の仕事ぶりまで十分に評価するには、会社独自の仕組みも必要になります。

そこで、次に考えたいのが24段階評価制度です。

2.CCUSと会社独自の評価を組み合わせる「24段階評価制度」

24段階評価制度とは、CCUSの4段階評価と、会社独自の6段階評価を組み合わせる考え方です。

つまり、

CCUSの4段階 × 会社独自の6段階 = 24段階

という仕組みです。

ここで大切なのは、単純に評価の数を増やすことではありません。

公的な基準を参考にした技能評価と、会社が現場で求める能力の評価を組み合わせることに意味があります。

例えば、会社独自の6段階評価では、次のような項目を設定できます。

・施工精度や仕上がりの品質
・建具の取り付けや納まりに関する知識
・作業の段取りや時間管理
・安全ルールや現場マナーの順守
・現場での判断力や問題への対応力
・後輩への指導やチームワーク

こうした項目を決め、評価の基準をできるだけ具体的にします。

例えば、「仕事を頑張っているから高評価」という曖昧な判断では、評価する人によって結果が変わってしまいます。

そうではなく、「施工図を理解し、必要な確認を行いながら、一人で適切に作業を進められる」「後輩に作業手順を説明し、安全面にも配慮できる」といった形で、求める行動を明確にするのです。

さらに、評価する時期や方法、評価者、本人への説明方法なども決めておく必要があります。

こうすることで、職人は自分の強みや課題を理解しやすくなります。

また、「どの資格を取得すればよいのか」「どのような技術を身につければ評価が上がるのか」「次の給与等級に進むためには何が必要なのか」も分かりやすくなります。

つまり、評価制度が職人の成長を支える地図になるのです。

ただし、24段階評価制度は、CCUSそのものに設けられた全国共通の制度ではありません。会社が独自に設計する評価方法の一つです。

また、CCUSのレベルと会社独自の評価を組み合わせたからといって、自動的に賃金が決まるわけでもありません。

会社の規模や仕事内容に合わせて、評価項目や給与との結びつけ方を考えることが重要です。

3.最低賃金の引き上げに、どう対応するか

次に、最低賃金の引き上げについて考えてみます。

最低賃金が上がることは、働く人の生活を守るために重要です。一方で、会社にとっては人件費の増加につながります。

特に、若手社員やパート従業員などの賃金が最低賃金に近い場合、賃金の見直しが必要になります。

ここで注意したいのが、最低賃金の引き上げをきっかけに、すべての社員の給与を一律に引き上げる方法です。

例えば、最低賃金への対応が必要な社員の賃金を見直すだけでなく、社員全員の給与を同じ割合で引き上げた場合、会社全体の人件費は大きく増える可能性があります。

もちろん、職人の生活を守り、物価上昇に対応するための賃上げは重要です。

しかし、会社の売上や利益が十分に増えていない状態で人件費だけが増え続ければ、資金繰りが厳しくなることも考えられます。

材料費、外注費、車両費、設備費など、建具工事業には多くの経費があります。給与の支払いだけでなく、材料の仕入れや取引先への支払いに必要な資金も確保しなければなりません。

会社のお金が不足すれば、事業を続けること自体が難しくなる可能性があります。

だからこそ、最低賃金の引き上げに対応するときには、法律を守ることと、会社の経営を安定させることの両方を考える必要があります。

そのための方法の一つが、評価制度と給与制度を連動させることです。

まず、最低賃金を下回らないように必要な賃金の見直しを行います。そのうえで、資格、技術力、仕事への取り組み、責任の範囲などを考慮し、昇給や手当の仕組みを整えていきます。

例えば、より難しい施工を担当できる職人や、現場をまとめられる職人、後輩の育成に貢献している職人などを、会社の基準に沿って評価します。

その評価を給与や手当に反映させることで、職人の成長と会社への貢献が、賃金に結びつきやすくなります。

ただし、評価が低いことを理由に、最低賃金を下回る賃金にしたり、すでに支払っている給与を自由に引き下げたりすることはできません。

また、全員の賃金を一律に上げないことだけが、経営対策ではありません。

大切なのは、法令を守りながら、人件費の使い方を見直し、売上や利益の改善にも取り組むことです。

評価制度は、単に人件費を抑えるための道具ではありません。会社が限られた経営資源を活用し、努力する職人の成長を支えるための仕組みなのです。

4.なぜ社労士の関与が必要なのか

ここまで読むと、「それなら、自分の会社でも評価制度を作ってみよう」と考える経営者もいるかもしれません。

しかし、評価制度や給与制度は、表を作れば完成するものではありません。

社員の賃金や働き方に関わるため、法律上の問題や、社員とのトラブルにも注意する必要があります。

そこで重要になるのが、社会保険労務士、いわゆる社労士の関与です。

社労士は、労働関係法令や社会保険制度などに関する専門家です。会社の実情に合わせて、労務管理や就業規則、賃金制度の整備を支援します。

主な役割は、次の3つです。

① 法律を守った賃金制度にする

最低賃金は、地域や対象となる労働者などによって適用される金額が異なります。

そのため、会社が対応するときには、適用される最低賃金を確認しなければなりません。

また、給与の金額だけでなく、労働時間、時間外労働の割増賃金、各種手当の扱いなどにも注意が必要です。

社労士に相談することで、こうした点を確認し、法律に沿った制度づくりを進めやすくなります。

② 社員とのトラブルを防ぐ

新しい評価制度を導入するときには、現在の給与と新しい給与のバランスを慎重に考える必要があります。

制度の変更によって社員の給与が下がったり、特定の社員だけが不利な扱いを受けたりすれば、不満やトラブルにつながる可能性があります。

賃金などの労働条件を、会社が一方的に不利益な内容へ変更することには、法律上の制約があります。

そのため、制度変更の必要性、変更内容の合理性、社員への説明、経過措置などを検討しなければなりません。

社労士の支援を受けながら、社員が納得できる制度を目指すことが大切です。

③ 就業規則や賃金規程に反映する

評価制度を長く運用するためには、ルールを文書にしておく必要があります。

例えば、評価の時期、評価項目、昇給の条件、資格手当、役職手当などを整理し、必要に応じて就業規則や賃金規程に反映させます。

制度を導入した後も、実際の運用状況を確認し、問題があれば見直すことが重要です。

ただし、社労士に依頼すれば、すべての問題が自動的に解決するわけではありません。

どのような職人を育てたいのか、どのような働き方を大切にするのか、どの程度の人件費を負担できるのか。

こうした経営方針を決めるのは、会社自身です。

経営者が目指す方向を明確にし、社労士の専門知識を活用することで、現場に合った制度を作ることができます。

5.制度を作るだけでなく、運用することが大切

CCUS、24段階評価制度、最低賃金対策、社労士の関与。

これらを組み合わせる目的は、制度を増やすことではありません。

職人が成長できる環境を整え、会社が安定して事業を続けられるようにすることです。

そのためには、導入の順番も大切です。

まず、現在働いている社員の資格、経験、担当業務、給与などを整理します。

次に、会社が職人に求める技術や能力を明確にし、評価項目を決めます。

そのうえで、評価と給与をどのように結びつけるのかを検討し、最低賃金や労働関係法令に問題がないかを確認します。

制度を整えた後は、社員に内容を説明し、実際に運用しながら改善していきます。

特に大切なのは、評価する側の基準をそろえることです。

同じ仕事をしていても、評価する人によって結果が大きく違えば、制度への信頼は失われてしまいます。

評価の理由を説明できるようにし、社員が自分の課題や次の目標を理解できる仕組みにする必要があります。

また、評価の結果だけでなく、社員が努力していることや、技術を身につけるために取り組んでいることにも目を向けることが大切です。

制度は、作った時点が完成ではありません。現場の声を聞き、実態に合わせて改善していくことで、初めて会社に根づいていきます。

まとめ|職人を守り、会社の未来を守る仕組みへ

建具工事業にとって、職人の技術は会社の大切な財産です。

しかし、その技術が正しく評価されず、努力しても給与や待遇に反映されないのであれば、職人の意欲を保つことは難しくなります。

反対に、評価の基準が明確になり、技術の向上や仕事への貢献が適切に認められれば、職人は将来の目標を持ちやすくなります。

CCUSで資格や経験を見える化し、会社独自の24段階評価制度で現場での能力を評価する。

そして、最低賃金の引き上げには法令を守って対応しながら、会社の経営状況も踏まえて、納得感のある給与制度を整える。

その仕組みを社労士が労務管理の面から支え、経営者が継続的に運用していく。

これが、今回お伝えしたい考え方です。

もちろん、評価制度を導入しただけで、売上が増えたり、人材不足が解消したりするわけではありません。

適正な工事価格の確保、生産性の向上、人材育成、働きやすい職場づくりなどにも取り組む必要があります。

しかし、職人の能力を正しく評価し、その成長を会社の成長につなげる仕組みは、これらの取り組みを支える土台になります。

これからの建設業経営で大切なのは、単に人件費を削ることでも、全員の給与を一律に上げることでもありません。

職人の努力に報いることと、会社の経営を守ること。この2つを両立させることです。

職人が安心して働き、技術を磨き、将来に希望を持てる会社をつくる。

そして、会社は適切な利益を確保し、次の世代へ技術を引き継いでいく。

建具工事業の未来を守るために、今こそ「人を育てる仕組み」と「会社を守る仕組み」を一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。