【静岡県中小建設業社長様】ダクト工の技術と会社の未来を守るCCUS
職人の評価が建設業の経営を変える
建設業を取り巻く環境は、大きく変わり始めています。
職人の高齢化、若い人材の不足、材料費や人件費の上昇、そして最低賃金の引き上げ。
こうした課題に直面する中で、専門工事業の会社が安定した経営を続けていくためには、これまで以上に人材の育成や技術の継承、適正な賃金の確保に取り組む必要があります。
そこで注目したいのが、CCUS(建設キャリアアップシステム)です。
今回は、ビルや工場などの空調・換気・排煙設備を支える「ダクト工事」を取り上げ、CCUSが職人の働き方や会社の経営にどのような影響を与えるのかを考えてみたいと思います。
1.ダクト工は、建物の快適さと安全を支える専門職
私たちが普段利用しているオフィスビル、病院、商業施設、工場などには、空調設備や換気設備が設置されています。
夏には涼しい空気を届け、冬には暖かい空気を届ける。また、室内の汚れた空気を外へ排出し、建物の中を快適な環境に保つ。
こうした働きを支えている設備の一つが、ダクトです。
ダクトとは、空気を運ぶための通り道です。
ダクト工は、設計図や施工図を確認しながら鉄板などの材料を加工し、ダクトを製作して現場に取り付けます。
しかし、図面どおりに取り付ければよいという単純な仕事ではありません。
現場には梁や柱、配管、電気設備などがあり、限られたスペースの中で、ほかの設備との位置関係を考えながら施工する必要があります。
寸法の確認、材料の加工、接続部分の処理、吊り込み、取り付け位置の調整など、一つひとつの作業に知識と経験が求められます。
施工の精度が悪ければ、空気漏れや風量の不足、設備の性能低下につながる可能性もあります。
さらに、排煙設備は、火災時に煙を排出して人々の安全を確保するための重要な設備です。
つまり、ダクト工は、建物の快適さだけでなく、安全性にも関わる仕事を担っているのです。
それほど重要な仕事であるにもかかわらず、職人の技術力は、外から見ただけでは分かりにくいという問題があります。
同じダクトを取り付けていても、作業の速さ、仕上がりの精度、現場での判断力、ほかの職種との調整力には違いがあります。
こうした能力を正しく評価するために、CCUSの活用が重要になります。
2.CCUSで職人の経験と技能を見える化する
CCUSとは、建設キャリアアップシステムのことです。
建設業で働く技能者の資格や就業履歴などを登録し、経験や能力を確認しやすくするための仕組みです。
これまで建設業では、職人の能力を判断するときに、「何年働いているか」「どのような現場を経験してきたか」といった情報が重視されてきました。
もちろん、経験年数は大切です。
しかし、長く働いていることと、高い技術力を持っていることは、必ずしも同じではありません。
反対に、若くても努力を重ね、難しい作業を任されるほどの技術を身につけている職人もいます。
そのため、経験年数だけでなく、保有資格や就業履歴なども含めて、技能者の能力を客観的に把握することが重要です。
CCUSでは、登録された情報を通じて、職人がどのような資格を持ち、どのような経験を積んできたのかを確認しやすくなります。
例えば、ダクト工事に関わる技能者が、関連する技能検定などの資格を取得していれば、その情報を登録し、技能を確認するための資料として活用できます。
ただし、資格を持っていることだけで、すべての現場対応力が分かるわけではありません。
実際の施工では、図面を読み取る力、現場の状況に合わせて判断する力、作業の段取り、安全管理、ほかの職種との連携なども必要です。
そのため、CCUSに登録して終わりにするのではなく、登録情報を人材育成や社内評価に活用することが大切です。
職人の能力を見える化することは、本人の成長を支えるだけでなく、会社が人材を育てるための土台にもなります。
3.能力評価のレベル1〜4で、成長の道筋を明確にする
CCUSを活用するうえで、もう一つ重要なのが技能者の能力評価です。
建設業では、職種ごとの能力評価基準に基づき、技能者をレベル1からレベル4までの4段階で評価する仕組みがあります。
ダクト工事に関わる技能者についても、該当する職種の能力評価基準や適用条件を確認し、活用することが大切です。
それぞれのレベルを、一般的な成長段階として考えてみましょう。
【レベル1:初級技能者】
建設現場で経験を積み始めた段階です。
先輩の指導を受けながら、安全ルールや基本的な作業手順を学び、必要な知識と技術を身につけていきます。
【レベル2:中堅技能者】
基本的な作業を理解し、一定の範囲で自分の判断によって仕事を進められる段階です。
材料の加工やダクトの取り付けなど、担当できる仕事の幅を広げていきます。
【レベル3:熟練技能者】
高い施工技術を持ち、現場の状況に合わせて適切に対応できる段階です。
後輩への指導や作業の段取りにも関わり、施工品質の向上を支える役割を担います。
【レベル4:高度な技能を持つ技能者】
豊富な経験と高い専門性を持ち、現場全体を見ながら適切な判断ができる段階です。
職種や評価基準によっては、登録基幹技能者などの資格や役割が評価に関係します。
なお、これは各レベルの役割を理解するための一般的な説明です。実際のレベル判定は、職種別の基準、資格、経験などに基づいて行われます。
このように成長段階が見えることで、職人は将来の目標を立てやすくなります。
「どの資格を取得すればよいのか」
「どのような経験を積めば、より高度な仕事を任されるのか」
「将来は職長として現場をまとめられるようになりたい」
こうした目標が明確になれば、日々の仕事に取り組む意欲も高まります。
会社にとっても、職人の成長段階を把握しながら、教育や資格取得の計画を立てやすくなります。
ただし、CCUSのレベルが上がれば、自動的に給与が上がるわけではありません。
評価を処遇改善につなげるためには、会社独自の給与制度や評価基準を整えることが必要です。
4.CCUSは、元請けからの信頼を高める材料になる
ダクト工事会社にとって、仕事を安定して受注することは、経営を続けるうえで欠かせません。
元請け会社や発注者が専門工事業者を選ぶときには、価格だけでなく、施工品質、安全管理、工期を守る力、現場での対応力なども重要になります。
そこで、自社の職人が持つ資格や経験、技能を整理しておくことが役立ちます。
例えば、必要な資格を持つ職人がどれだけいるのか、どのような経験を持つ人材が現場を担当するのかを把握していれば、自社の強みを説明しやすくなります。
CCUSは、そのための情報基盤の一つとして活用できます。
自社の技能者の能力を客観的な情報とともに説明できれば、ほかの会社との差別化につながる可能性があります。
ただし、CCUSに登録していることだけで、受注が増えたり、元請けからの評価が必ず高まったりするわけではありません。
実際の施工品質、安全管理、納期の順守、現場での対応などが伴ってこそ、会社への信頼につながります。
大切なのは、CCUSを単なる登録制度として終わらせず、自社の技術力を高めるために活用することです。
5.技術力の見える化は、適正な工事価格の確保につながる
専門工事業の経営では、受注を増やすことだけでなく、適正な利益を確保することも重要です。
ダクト工事には、材料費、加工費、運搬費、取り付けに必要な人件費、安全対策費など、さまざまな費用がかかります。
さらに、熟練した職人を育てるためには、教育や資格取得にも費用が必要です。
しかし、工事価格が安さだけで決まってしまうと、こうした必要な費用を十分に確保できなくなる場合があります。
その結果、職人の賃金を上げることが難しくなったり、若手を育てる余裕がなくなったりする可能性があります。
こうした状況を防ぐためには、工事に必要な費用を正しく計算し、根拠を持って価格を説明することが大切です。
例えば、施工に必要な人員や作業時間、工事の難しさ、求められる品質、安全管理の内容などを整理します。
そのうえで、自社の技術力や施工体制を示し、工事に見合った価格を確保できるように交渉します。
CCUSによって職人の資格や経験を整理しておけば、自社の人材や技術力を説明する際の参考になります。
もちろん、CCUSだけで工事単価が上がるわけではありません。
実際の施工実績や品質、安全管理、現場での対応力なども重要です。
しかし、技能を客観的に把握し、自社の強みを説明できるようにすることは、適正な価格交渉を進めるうえで役立ちます。
適正な工事価格を確保し、必要な利益を残すことができれば、職人の賃金改善や人材育成にも資金を回しやすくなります。
つまり、技能の見える化は、会社の経営を安定させるための取り組みの一つなのです。
6.最低賃金の引き上げと、職人の処遇改善
近年、最低賃金の引き上げや物価の上昇によって、会社の人件費負担は大きな経営課題になっています。
働く人の生活を守るために賃金を改善することは大切です。
一方で、売上や利益が十分に増えていない状態で人件費だけが増え続ければ、会社の資金繰りが厳しくなる可能性もあります。
そこで考えたいのが、技能の向上と賃金の関係を明確にすることです。
例えば、資格を取得した職人、高度な施工に対応できる職人、現場をまとめられる職人、後輩の指導を担う職人などを、会社の基準に沿って評価する方法があります。
その評価を、資格手当や技能手当、役職手当、昇給などに結びつけることが考えられます。
職人にとっては、何を学び、どのような能力を身につければ評価されるのかが分かりやすくなります。
会社にとっても、必要な人材を育てながら、賃金制度を計画的に運用しやすくなります。
ただし、最低賃金への対応と、技能や成果に応じた昇給は分けて考える必要があります。
最低賃金を下回らないように賃金を支払うことは、会社が守らなければならない基本的な義務です。
評価が低いことを理由に最低賃金を下回る賃金にしたり、すでに支払っている給与を自由に引き下げたりすることはできません。
また、すべての社員の給与を一律に上げないことだけが、経営対策ではありません。
重要なのは、法令を守りながら、適正な工事価格の確保や生産性の向上にも取り組み、賃金改善を続けられる経営基盤をつくることです。
CCUSを活用して技能を見える化し、社内の評価制度と組み合わせることは、そのための一つの方法になります。
7.CCUSを導入するだけでなく、活用することが大切
CCUSは、登録してカードを持てば、それで会社が強くなるという制度ではありません。
大切なのは、登録した情報を実際の仕事にどう生かすかということです。
まず、自社の職人がどのような資格や経験を持っているのかを把握します。
次に、今後必要になる技能や資格を考え、職人ごとの教育計画を立てます。
そして、施工品質や安全管理、作業の段取り、後輩への指導など、会社として大切にしたい能力を整理します。
評価制度を導入する場合には、評価の基準を明確にし、評価する人によって結果が大きく変わらないようにすることも重要です。
また、評価の理由を本人に説明し、次に何を目指せばよいのかを伝えることで、職人の成長を支えることができます。
こうした取り組みを継続することで、CCUSの情報を人材育成や会社の経営に役立てやすくなります。
もちろん、CCUSだけですべての経営課題が解決するわけではありません。
人材の確保、適正な価格での受注、生産性の向上、働きやすい職場づくりなどにも取り組む必要があります。
それでも、職人の能力を把握し、育成し、適切に評価する仕組みは、会社の将来を支える大切な土台になります。
まとめ|職人の技術を会社の未来につなげる
ダクト工事は、建物の空調、換気、排煙などを支える重要な専門工事です。
その品質を守るためには、職人一人ひとりの技術と経験が欠かせません。
だからこそ、職人の能力を正しく把握し、育て、評価する仕組みが必要です。
CCUSを活用して資格や経験を見える化し、能力評価や社内の教育制度と組み合わせることで、職人が成長するための道筋をつくることができます。
さらに、自社の技術力や施工体制を整理することは、元請け会社への説明や適正な工事価格の確保にも役立ちます。
そして、適正な利益を確保し、その一部を職人の賃金や教育に還元していくことが、会社の持続的な成長につながります。
職人の技術を正しく評価することは、職人の未来を守ることであり、同時に会社の未来を守ることでもあります。
CCUSを単なる登録制度として終わらせるのではなく、人材育成、施工品質の向上、処遇改善、そして安定した経営につなげていく。
これからのダクト工事業には、技術と経営の両方を考えながら、職人と会社がともに成長できる仕組みづくりが求められているのではないでしょうか。
