人手不足の時代、建設会社は「採用」だけでは生き残れない――対等事業統合が地域建設業の未来を変える

建設業界の人手不足が深刻化しています。

「若い職人が入ってこない」

「求人を出しても応募がない」

「ベテラン職人が引退すると、現場を回せなくなる」

「仕事はあるのに、人が足りないため受注を断らざるを得ない」

こうした悩みを抱える中小建設会社は、決して珍しくありません。

これまで人手不足対策といえば、「どうすれば若手を採用できるか」が中心でした。SNSや動画を活用した採用、学校訪問、求人サイト、社員紹介制度など、採用活動そのものを強化することはもちろん重要です。

しかし、これからの建設業界では、「新しい職人を採用する」だけでは、人手不足の問題を根本的に解決できない時代になってきています。

なぜなら、若手を一人採用しても、すぐに一人前の職人になるわけではないからです。

ゼロから採用した人材を現場で育成し、資格を取得してもらい、仕事を任せられるようになるまでには、数年単位の時間がかかります。

一方で、少子化と職人の高齢化は待ってくれません。

だからこそ今後の中小建設業では、「採用」と「事業統合」を別々の施策として考えるのではなく、両輪として考える必要があります。

その中でも注目したいのが、同じ地域の建設会社や隣接業種と手を組む「対等事業統合」です。

「点の採用」から「面の獲得」へ

若手職人の採用は、もちろんこれからも重要です。

むしろ、SNS動画などを使った採用活動は、これからの建設業にとって非常に重要な「入口のエンジン」になります。

しかし、採用には時間がかかります。

たとえば、18歳や20歳の若者を採用したとしても、いきなり現場の中心を任せられるわけではありません。

先輩職人が仕事を教え、安全教育を行い、資格取得を支援し、現場経験を積ませる。

その間、教育する側にも時間とコストがかかります。

そして、数年間かけて育てた人材が必ず定着する保証もありません。

つまり、「一人ずつ採用して育てる」という方法だけでは、現在の人手不足のスピードに追いつかない可能性があります。

ここで発想を変える必要があります。

一人の人材を採用するのではなく、**「チームそのものを獲得する」**という考え方です。

たとえば、地域の土木会社と水道会社が一緒になるケースを考えてみましょう。

土木会社には土木工事の経験者や施工管理技士がいる。

水道会社には給排水や設備工事に詳しい職人がいる。

それぞれが長年培ってきた地域の元請けや行政との信頼関係もある。

この2社が対等な形で統合すれば、単純に「社員数が2倍になる」という話ではありません。

熟練職人、有資格者、施工ノウハウ、顧客との信頼関係、地域での実績が一つのグループに集まるのです。

これこそが「点」ではなく「面」で人材を確保するという発想です。

対等事業統合は「時間を買う」戦略

企業経営において、時間は非常に重要な経営資源です。

若手を採用して一人前に育てるには、3年、5年という時間が必要になることがあります。

しかし、同じ地域の優良企業と統合すれば、すでに経験を積んだ職人や施工管理人材がグループに加わります。

つまり、統合とは「人を買う」だけではなく、「人が育つまでの時間を買う」戦略でもあります。

さらに、2社の受注能力を組み合わせれば、これまで人手不足で断っていた仕事にも対応できる可能性があります。

たとえば、A社だけでは対応できなかった大型案件を、A社とB社の施工体制を組み合わせることで受注できるようになる。

土木と水道、建築と設備など、隣接業種であれば、単純な人数増加以上のシナジーが生まれる可能性があります。

これは単体採用だけでは実現しにくいメリットです。

小規模建設会社ほど「管理コスト」が重くなる

人手不足の問題は、現場だけではありません。

実は今、中小建設会社を苦しめているのが、現場以外の管理業務の増加です。

労働時間管理、社会保険、給与計算、就業規則、安全管理、建設キャリアアップシステム(CCUS)、電子化、会計、採用活動など、会社を運営するための事務負担は年々増えています。

特に従業員数が3〜5人程度の企業では、社長自身が営業、現場、採用、経理、労務まで何役もこなしているケースがあります。

これは非常に大きな負担です。

会社が小さいから管理コストが安いとは限りません。

むしろ、少人数で固定的な管理業務を抱えることで、一人当たりの負担が大きくなることがあります。

そこで、2〜3社が対等に統合し、10〜15人程度のグループを形成するという選択肢が出てきます。

経理、給与計算、勤怠管理、採用、行政手続きなどをグループ内で集約すれば、一社ずつが同じ業務を繰り返す必要がなくなります。

求人広告や採用動画の制作、クラウドシステムなども共同利用できます。

さらに、重機や車両などについても、グループ全体で保有状況を把握することで、効率的な運用ができる可能性があります。

つまり、統合の目的は「会社を大きくすること」だけではありません。

小さな会社が一社ずつ背負っている固定コストを、グループ全体で分散することにも大きな意味があります。

なぜ「M&A」ではなく「対等統合」なのか

ここで、中小建設会社の経営者が感じる大きな壁があります。

それが、「会社を売る」という心理的な抵抗です。

自分で立ち上げた会社。

親から引き継いだ会社。

地域のお客様や行政との信頼を何十年もかけて築いてきた会社。

そうした会社を、外部の企業に買収されることに抵抗を感じる経営者は少なくありません。

「会社を売った」

「自分が経営者ではなくなった」

「これまで築いてきたものがなくなる」

そんな感情が、M&Aへの心理的なハードルになります。

そこで、一つの選択肢になるのが「対等事業統合」です。

たとえば、2社の経営者が共同でホールディングスを設立し、それぞれの会社をその傘下に置く方法です。

これは、どちらか一方が「買う」「買われる」という構図ではありません。

2社がそれぞれの強みを持ち寄り、新しいグループを共同で経営するという考え方です。

この違いは非常に大きいものです。

「社名を残せる」ことにも意味がある

地域の建設会社にとって、社名は単なるブランドではありません。

市役所、地元の元請け企業、協力会社、地域住民などとの間に築いてきた信頼そのものです。

だからこそ、統合したからといって、すぐにすべての会社名を消してしまう必要はありません。

共同ホールディングスの下に、

A建設株式会社

B工業株式会社

という形で、それぞれの会社を残す。

A社は土木を中心に、B社は設備や水道を中心に、それぞれの専門性を維持する。

一方、採用、経理、労務、DXなどはHD側で共通化する。

こうすれば、「地域で積み上げてきたもの」と「これから必要になる経営基盤」を両立させることができます。

共同ホールディングスという選択肢

対等事業統合の一つの形として考えられるのが、共同ホールディングス方式です。

イメージとしては非常にシンプルです。

共同ホールディングスを頂点に置き、その下にA社、B社が入ります。

HDは、グループ全体の経営戦略やバックオフィス、採用、DXなどを担当します。

一方で、実際の施工については、これまで通り各社が担当します。

つまり、

経営基盤は一つにする。

現場の強みは残す。

という設計です。

これは、中小企業の統合において非常に重要な考え方です。

現場まで一気に一つの会社にしてしまうと、社風や人間関係、顧客との関係まで大きく変わってしまいます。

そこで、まずは経営管理やバックオフィスを共通化し、現場については一定の独立性を残す。

そして、時間をかけながら必要な部分を統合していく。

この方が、社員にとっても受け入れやすい統合になります。

「攻め」の統合を最初から見せる

統合で大切なのは、コスト削減だけを目的にしないことです。

「一緒になったから経理を一人減らします」

「ルールを統一します」

「書類を増やします」

これでは、社員にとって統合は単なる負担増に見えてしまいます。

むしろ最初に見せるべきなのは、「統合したことで会社が良くなった」という実感です。

たとえば、採用活動。

A社とB社がそれぞれ求人を出すのではなく、グループとして採用動画を制作し、SNSで発信する。

複数の職種や仕事の魅力を一つの採用ブランドとして伝えることで、これまで接点を持てなかった若者にアプローチできるかもしれません。

また、バックオフィスをHDに集約することで、現場の社員が面倒な書類作業から解放されることもあります。

「統合したら事務作業が減った」

「採用の問い合わせが増えた」

「休日が取りやすくなった」

こうした成果が見えれば、社員の統合への理解も進みやすくなります。

採用と統合は「どちらか」ではない

ここで誤解してはいけないのが、「対等事業統合をすれば採用活動はいらない」ということです。

これは全く逆です。

若手採用は、これからも絶対に必要です。

ただし、採用だけにすべてを背負わせないことが重要なのです。

イメージするなら、

新規採用は「入口のエンジン」。

対等事業統合は「車体を大きくするフレーム」。

です。

採用によって若い人材を継続的に増やす。

一方で、統合によって熟練職人、資格者、施工能力、顧客基盤を一気に強化する。

さらに、HD化によって採用、労務、DX、経理などの管理機能を効率化する。

この三つを組み合わせることで、単体企業では難しかった成長戦略が見えてきます。

地域インフラを守るための「第三の選択肢」

建設業は、単なる一つの産業ではありません。

道路、水道、建物、造成、災害復旧など、地域の生活を支えるインフラそのものです。

だからこそ、地域の建設会社が人手不足によって事業を縮小し、廃業してしまうことは、その会社だけの問題ではありません。

地域全体の施工能力が失われることにつながります。

しかし、すべての会社が大手企業に買収される必要もありません。

また、すべての会社が単独で生き残れるとも限りません。

その間にある選択肢が、「地域の会社同士が対等なパートナーとして手を組む」ことです。

社名を残す。

地域との関係を残す。

職人を守る。

経営者同士も対等な立場で協力する。

その一方で、経営管理や採用、DXなどは一つのグループとして効率化する。

これからの中小建設業にとって、非常に現実的な選択肢ではないでしょうか。

まとめ――「一人を採る」から「地域の施工力をつくる」へ

これからの建設業における人手不足対策は、「どうやって若手を一人採用するか」だけでは不十分です。

もちろん、新しい職人を採用する努力は続けなければなりません。

SNS動画などを活用して若者に建設業の魅力を伝え、採用の入口を広げることは、今後ますます重要になります。

しかし、それだけでは時間が足りません。

だからこそ、地域の優良企業同士が対等な立場で手を組み、「人材」「資格」「技術」「顧客」「地域での信頼」をチームとして共有するという発想が重要になります。

対等事業統合は、単なるM&Aの代替手段ではありません。

それは、人手不足の時代に地域の施工能力を維持し、さらに成長させるための経営戦略です。

一社だけで若手を集める。

一社だけで人を育てる。

一社だけで経理も労務も採用もDXも背負う。

そんな時代から、少しずつ考え方を変える必要があります。

「自社を大きくする」のではなく、「地域全体の施工力を大きくする」。

そのために、同じ地域の企業同士が、それぞれの歴史や看板を守りながら、一つの大きなグループをつくる。

これからの中小建設業にとって、対等事業統合は「最後の手段」ではありません。

むしろ、会社を守り、職人を守り、地域のインフラを守り、次の世代につなぐための、前向きな成長戦略になっていくのではないでしょうか。

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